バスタブを捻る。キュ、と心地良い音がして温水が体に降りかかり、汗で汚れた体を清めていく。 ああ、やっぱり試合の後に浴びるシャワーは気持ちいい。激しい動きで火照った体を冷まし、全身を濡らす汗を流す。何より・・・気分爽快。 今日はかなり打ち込まれた。負け星はつかなかったけど、3分の2回を投げて自責点は3。被安打は4。私のせいで負けた、といっても仕方ない成績だ。 野球はあまり興味は無いけど――でも投げるからには負けたくない。負けてしまったら、悔しいし、イライラする。 そんなときはシャワーを浴びる。悔しさ、イライラ、そんなものを全部洗い流すように。 河童も便利な物を開発してくれた。偉大なる発明王河童様、このシャワーというお恵みを私に与えてくださりありがとうございます―― 「バカか私は」 危うく河童を信仰するところだった。河童なぞ信仰してもライブの依頼が転がり込んでくるわけがない。まあ、新製品をすぐに寄越してくれるかもしれないが。 ・・・でも、感謝はしないとね。 さ、かるく頭でも洗おう。ノブを右に捻ってお湯を止め、とろりとしたシャンプーを手に乗せ、お湯で濯いで泡立てる。 それを一気に髪に叩き付け、両手でわしゃわしゃと洗う。姉さん達には女の子らしくないよって言われるけど、そんな事知ったこっちゃない。 髪をいためないように洗うと、どうしても時間がかかるし、それほど美容には気を使っていない。なにより私は騒霊。よほどのことがなければ体型なんて変化しない。 それでもお風呂には入るけどね。気持ちいいし。 ある程度洗ったところで、お湯を出して泡を流す。頭を少し重くしていた泡が弾ける音、湯が床に跳ねる音。どれもが心地良かった。 ふと。本当にふとだけれど。 体を流れていく泡が、胸を伝うのが見えた。 「・・・・・・」 胸に手をやる。大きくはない・・・いや、素直になろう。全然大きくない胸。 姉さん達はまあまあある――っていうか、メル姉はすごく大きい――のに、私だけ、こんなの。 「むぅ・・・」 なんか悔しい。同じ姉妹なのにこんなに差があるのが悔しい。なにより自分達が騒霊なのが一番悔しい。 私達は騒霊。簡単に言えば幽霊だ。だから身体はもう成長しない。もう私の胸が大きくなることもない。 不公平。そう、不公平だ。私達は生まれた時からこの姿なのに、どうして姉さん達はあんなに大きいんだろう。 許せない。『彼女』はこんな風に私を生み出しやがって。今度会った時は・・・ 「・・・ホント、バカね」 恨みの気持ちを消す。一体何を思っているのだ、私は。『彼女』の事を呪うなんて。しかも胸が小さいと言う理由で。馬鹿馬鹿しいにも程がある。 私達を生み出してくれた、そんな『彼女』を、私なんかが呪っていい訳がない。 私が『彼女』に対して許される行為は・・・安らかな眠りを祈る事だ。 「・・・さて」 気が変わった。こうなったら徹底的に体をきれいにしていこう。そして帰ったら、『彼女』の墓参りをしよう。 姉さん達には珍しがられるかもしれないけどね。自分でも不思議だ。どうして急に墓参りなんてしようと思ったんだろう? ・・・まあいいや、理由なんて。何かをすることの方が、よっぽど重要だし。 濡れたタオルを手に取り、ボディーソープを塗る。よくよく泡立てて、体に擦り付けていく。これも気持ちがいい。タオルと体が擦れるのが、またなんとも。 でも、自分の平坦な胸を洗うときには、流石に溜め息が漏れた。